蠍は留守です記

蠍の不在を疑わずに眠る暮らしの記録

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震災後、はじめて実家へ帰省した (その3)

福島産のタラの芽がとてもとても安い価格で売られていた。同じグレードでも山形産のタラの芽は例年通りの価格。理由はあまり想像したくない。そこで購入してきたものを天ぷらにして食べた。実家で採れるタラの芽には負けるけど、十分美味しかった。

我が家は実家の敷地でタラの芽が採れる。出荷用の水耕栽培ではなくて、世話もしてないのに勝手に生えてくる雑草のようなタラの芽なので、そのぶんきちんと大地の香りがする強いタラの芽だ。去年もそのタラの芽を食べた。今まではこれが高級品であることが不思議だったけれど、今年は産地が福島というだけで売れない現実に胸を痛めている。

実家で食べたタラの芽

福島産の食べ物の中には危険なものもあるかもしれない。危険なものはもちろん食べるべきではない。でも、全部が危険なワケではない。きちんと検査・公表されていないから、疑心暗鬼が生まれる。結果、何も食べられなくなる。本当は私が食べたものだって、安全ではないかもしれない。そもそも街自体が安全ではないのかもしれない。

「福島の野菜が食べたいです」って言ってくれた人の中にも、実際に差し出したら受け取らない人はいるだろう。自衛は当然のことなので、危険なものを避ける心理はわかる。日々状況も数値も変わる。じゃあどうすればよいのか。福島で生まれ育ち暮らしてきた人達はどうすればよいのか。

そんなこと誰も知らない。
だからせめて毎日を心穏やかに暮らせるよう、そのことに力を尽くす以外にない。

無心に見つめてくる猫たちを前にして、バイバイ置いていくよとは言えない。言えない。でも土地を離れることになったら、現実的に考えて、彼らを連れていくことはきっと、できない。

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